不動産は、個人にとっても企業にとっても、高額で非常に重要な財産です。
そのため、このような重要な財産を取り扱う不動産業に従事するには資格が必要とされています。
ところが、不動産業に従事する人が自己破産をすると、資格に制限が生じます。
こうしたことから、不動産業界で働く人は、「自己破産できない」と考え、自転車操業を続け、ますます事態を悪化させてしまうことが少なくありません。
しかし、自己破産をした場合でも、不動産業界に居続けることは可能です。
また、債務整理には、自己破産以外にも任意整理や個人再生といった方法があり、これらは資格や免許に制限がありません。
自己破産ができないからこそ、早めに債務整理を検討することで、任意整理や個人再生をすることができる可能性が生まれます。
そこで、この記事では、不動産業界で働く人の債務整理6つのポイントと注意点について詳しく解説していきます。
また、大切なことなので最初に結論からお伝えします。
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それでは解説をしていきます。
不動産業界で働く人が自己破産をしない方がよい理由
自己破産をすると資格制限を受ける
冒頭で述べたとおり、不動産は非常に重要な財産です。
そのため、日本では、不動産に関わる仕事をするためには、さまざまな資格が必要とされています。
自己破産をすると、不動産に関わる仕事をするための資格に制限が生じることがあります。
不動産に関わる仕事をするための主な資格のうち、自己破産することが欠格事由や登録取消しの理由となるものは以下のとおりです。
①宅地建物取引士(宅地建物取引業法18条1項3号、68条の2)
②管理業務主任
(マンションの管理の適正化の推進に関する法律59条1項1号、65条1項1号)
③不動産鑑定士(不動産の鑑定評価に関する法律16条、19条、20条)
④司法書士(司法書士法5条3号、15条1項3号)
⑤土地家屋調査士(土地家屋調査士法5条3号、15条1項3号)
なお、測量士として登録している場合、自己破産をしても取消しなどはされません。
しかしながら、測量法上、「破産者で復権を得ない者」が測量業の登録申請をすることはできないとされています(55条の6)。
資格制限とはどういうこと?
このように上に挙げた仕事に従事していた人が、自己破産をすると、登録が取り消されてしまうことになります。
しかしながら、一度取得した資格を失うわけではありません。
自己破産による資格制限は、あくまでも自己破産の手続き期間中に限られます。
「復権」というものを得られれば、再び登録し、上に挙げた仕事に従事することが可能です。
それでは、「復権」とはどういうものでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
自己破産における復権には「当然復権」と「申立てによる復権」とがあります。
当然復権とは
当然復権とは、法定の事由が発生した場合、当然に復権が認められる場合のことをいいます。
当然復権が認められる法定の事由としては、以下のものがあります。
①免責許可決定の確定
②破産手続同意廃止決定の確定
③再生計画認可決定の確定
④破産手続開始決定後に詐欺破産罪の有罪確定判決を受けることなく10年を経過した場合
このうち自己破産をする人が通常当てはまるのは、①免責許可決定の確定です。
自己破産の手続きは、債務者の財産を処分してお金に換え、債権者への返済に充てる手続きとそれでも残った借金をゼロにする手続きからなります。
前者は、破産手続と呼ばれ、後者は、免責手続と呼ばれています。
そして、免責手続において、裁判所が①免責許可決定をし、これが確定すると復権することになるのです。
申立てによる復権とは
申立てによる復権とは、当然復権が認められない場合に破産者が借金の残額を返済したり、時効が完成したりすることで借金がなくなったため、裁判所へ申し立てることによって、復権が認められるものです。
資格制限の期間はどのくらい?
このように、上に挙げた職業に従事していた人が、自己破産により登録が取り消されたとしても、復権を得られれば、再び登録し、仕事に従事することが可能です。
それでは、自己破産により登録が取り消され、再び登録ができるようになるまではどれくらいかかるのでしょうか。
これは、通常、自己破産の申立てを受けた裁判所が手続きを開始する旨の決定をした日から、免責許可決定が確定し、復権するまでの期間です。
自己破産には「同時廃止事件」と「管財事件」という2つの手続きがあります。
分かりやすくするため、大まかに分けると、破産する人が財産を持っている場合は管財事件、財産を持っていない場合は同時廃止事件となります。
自己破産をするくらいですから、ほとんどの人が財産を持っておらず、同時廃止事件となることが多くなっています。
そして、同時廃止事件の場合、破産手続き開始決定から免責許可決定が確定するまでの期間は、短いと3か月程度です。
なお、裁判所によっては多少長くなることもあります。
一方、管財事件では、裁判所によって破産管財人という人が選ばれ、財産の調査や管理、破産に至った事実関係の調査などを行います。
そのため、管財事件は、同時廃止事件と比べて長引く傾向にあります。
一般的に、破産手続き開始決定から免責許可決定が確定するまでの期間は6か月から1年程度が見込まれます。
このように、自己破産により登録が取り消され、再び登録ができるようになるまでは3か月から1年程度かかるでしょう。
勤務先から解雇されてしまうの?
では、会社と雇用関係にある人が、自己破産をし、不動産に関わる仕事をするための資格の登録が取り消された場合、解雇されてしまうのでしょうか。
通常、会社は、自己破産をしたことを理由に従業員を解雇することは困難です。
もっとも、不動産に関わる仕事をするための資格を持っており、そのような業務に従事することを前提として入社したような場合は事情が異なります。
つまり、自己破産によりその資格が取り消されると、本来従事すべき業務に従事できなくなるので、会社が従業員を解雇する可能性がでてきます。
とはいえ、先に説明したとおり、一度取得した資格を失うわけではなく、3か月から1年程度経てば再び登録ができるようになります。
そこで、会社に対し、一時的に資格が不要な業務に従事できるようにお願いすることを検討してもよいでしょう。
なお、自己破産により不動産に関わる仕事をするための資格が取り消されたにもかかわらず、会社に申告することなく、従前どおり業務に従事することは、懲戒解雇の原因となり得ます。
したがって、自己破産により資格が取り消された場合、早急に会社へ報告してください。
不動産業の経営者が自己破産する場合は?
一方、不動産業を自ら営む人が自己破産する場合も注意が必要です。
というのも、宅地建物取引業法の規定により、宅地建物取引業を営もうとするものは、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けること必要がありますが、個人事業主もしくは法人の役員(取締役、監査役など)が自己破産をすると、免許が取り消されてしまうからです。
そのため、特に宅地建物取引業を営む法人の役員を務めている人が自己破産をする場合、自己破産をする前に役員を辞任する必要があります。
なお、役員が自己破産をすると、会社との委任契約が解除されるため、当然に役員としての地位を失うことになるのですが、免許の取消しを避けるためには、自己破産をする前に役員を辞任してください。
自己破産以外の債務整理
このように不動産業界で働く人が自己破産をすると様々な不利益があります。
そこで、不動産業界で働く人が債務整理を考えるのであれば、自己破産以外の方法を選ぶのがよいでしょう。
以下では、実際によく使われている任意整理と個人再生という方法について紹介します。
任意整理について
任意整理とは、裁判所を介さず、直接貸金業者などと交渉し、利息や遅延損害金の支払いを免除してもらった上で、毎月の返済額も減額してもらい、借金そのもの(元本)を3年から5年で返済する内容の合意を締結する手続きです。
任意整理は、裁判所を介さないので、簡易迅速に行うことができ、最も多くの人に利用されている手続きです。
もっとも、一般的に、毎月の返済額の合計が手取り月収から住居費を差し引いた額の3分の1を超えるようであれば、任意整理は難しいと言われています。
そのため、任意整理を希望するのであれば、借金の総額が少ないうちに弁護士などの法律専門家に相談することが必須です。
個人再生について
任意整理が難しい場合、個人再生を検討することになるでしょう。
個人再生とは、裁判所に申立てをして、借金の一部を免除してもらい、残った借金を3年(特別な事情がある場合、5年間まで返済期間を延ばすことができます)かけて分割で返済する手続きです。
個人再生では、最低でも返済しなければならない金額が以下のとおり決められています。
債務額が100万円未満の場合 | 債務全額(減額なし) |
債務額が100万円以上500万円以下の場合 | 100万円 |
債務額が500万円を超え1500万円以下の場合 | 債務額の5分の1 |
債務額が1500万円を超え3000万円以下の場合 | 300万円 |
債務額が3000万円を超え5000万円以下の場合 | 債務額の10分の1 |
そのため、借金をゼロにすることができる自己破産よりは経済的な負担が大きいですが、自宅を所有している場合、これを処分しなくて済みますし、何より資格制限・職業制限はありません。
まとめ
以上、この記事では、不動産業界で働く人の債務整理6つのポイントと注意点について解説しました。
説明したとおり、不動産業界で働く人が自己破産をすることは不利益が大きくなっています。
そのため、自己破産以外の債務整理の方法を選択すべきですが、借金の総額が増えれば増えるほど選択肢が少なくなってしまいますので、一日も早く弁護士などの法律の専門家に相談してください。
以上
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